建築相談事例 1.家の傾きをどうしたらいい?
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現地調査の結果、この家の敷地は盛土したところに建っていること、鉄筋コンクリート造布基礎の下に杭なども無い事が分かりました。
家の傾きをレベルなどを利用して測定すると、全体が傾いていることも確認されたのです。 生じた結果を結論から言えば「原因は地盤の地耐力を確認せず基礎を設計し、その結果、不同沈下を招いた」ということになります。 なお後日、構造関係者と現地を訪れ、補修方法と地盤の補強方法を検討した結果、それに要する費用は約800万円と試算されました。 |
■一口メモ「不同沈下とは?」
建物全体が均等に沈むのでは無く不均一に沈む場合を言う。例えば基準の水平線より南では2cm、北では10cm沈み、斜めに傾いているような状態。南北の距離が800cmあれば10/1000の勾配となり、柱が傾き、建具の開閉が困難となる。 不同沈下が起こると建物の荷重が1ヶ所に集中し、基礎や壁に亀裂が生じたり床に勾配が出来たりする。住んでいる人にもめまいや頭痛が起きるなどの精神的なストレスを引き起こす場合もある。 |
【経過及び原因と対策】
建築主は近くに葦が生え、小川があるこの郊外の自然が気に入って、近くの不動産屋から土地を購入し、家を完成させました。 また、建築工事中は一週間に1度は現場を訪れ、写真も沢山撮っています。 そして現況の敷地はなだらかな傾斜地でしたが、その上に盛土して平らにした事も知っており、造成工事後、すぐにコンクリート基礎を打ったところも見ています。 完成後、建築主は何の疑問も不安も持たずに入居しています。 そして入居1年後「家が傾いているのでは」という不安を持ったのです。 何故このようなことが起きてしましたのでしょうか? 盛土した部分より下 (元の地盤面)に基礎の布部分を持ってくるとか、布部分の下に杭を打つとか、家の下全体にわたって布部分を広げる(べた基礎と言う)方法を考えるべきでした。 どれを使うかは地盤調査を行い、構造計算をして基礎の工法を決めます。 家を建てている途中に何度か防ぐチャンスはあったと考えられます。 チャンスを捉え、適切な処理が出来るのは販売者、設計者、監理者、施工者であり、その役割を果たす事で最悪の事態に陥らないですんだはずです。 この問題には実にさまざまなことが含まれています。 そしてこの事例から欠陥やクレームを引き起こさないために学ぶ事や、安全で快適に住める建物を作るためには建築主もある程度のチェックポイントと、確認が出来る知識が必要である事を示しています。 家の傾き事故を未然に防ぐために建築主が知っておくべき事、またこれに係った人それぞれの果たすべき役割は何なのでしょうか。 今回は以下のような観点からまとめてみました。 |
【敷地選びのポイント】
建築主はまわりの環境、景観、価格などを考慮しながら敷地の候補地が決まったらその土地の地盤について知っておく事が必要です。 建物を建てる為にその重さを支える地盤(家を支えている下の土)については、下記のことを知っておくとよいでしょう。 一般的に川や沼、葦の生えている近くは地盤が悪い事があります。 今回のように傾斜地に盛土し平らに造成した敷地の場合も要注意です。 近くの役場や市役所の宅地課、建築指導課、または付近の住人に聞いたりするとおおよその事がわかります。また住所や地名からそれらが推測できる場合もあります。
これらが付く地名(旧地名など)は歴史的にその近辺の土地がどうだったかを知る手がかりになります。そのような地名が含まれるところは、地盤が弱いのでは?と疑ってみる必要があります。 他に地盤を知る手がかりとしては敷地の周辺の状況をよく確認することで得る事が出来ます。
一つぐらいでは確実なことは言えませんが、3つも4つも当てはまるようであれば専門家に見てもらうか、地盤調査をする事が必要です。 地盤の状況を確実に知るには地盤調査を行います。 地盤調査もその土地に建てられる建築物によって方法が各種あり、費用も違います。 通常のビルなどの建物用としては標準貫入試験(ボーリング試験)では、土中に孔径66mmで穴をあけ、鋼管を深く差込、硬さや締りを確認し、そこの深さの土を採取する事で地耐力を知る事が出来ます。 木造戸建住宅の2階や3階建て程度であれば、スウェーデン式サウンディング試験などが一般的に行われています。 スウェーデンの国鉄が初めて採用した方法で、日本では道路公団などが使って普及し、比較的経費が安く簡便に結果を推測できます。 直径19mmの鉄管の先端部にドリルがついており、100kgのおもりを載せ、回転させながら地中に押し込み、その回転数と、ある深さに達するまでの時間で地盤の硬さを知る方法です。 50坪位の敷地の場合3ヶ所位調査を行い、作業員2人が3時間位かかった場合で約6~8万円前後の費用で出来ます。 |
【役割と責任】
このような知識は販売者、設計者、監理者、施工者がそれぞれ持っているはずであり、まして盛土の上に家を建てる場合は不同沈下を生じる危険性が極めて高いことを知っているはずです。 専門的な知識を持ち合わせている関係者が基礎コンクリートを打つ前にそれらに気がつき、地盤の調査を手配し、データーを取得し、基礎の設計を行っていればこうはならなかったでしょう。 また、建主側も、技術的にも人間的にも信頼できる人をみつけてられれば防げたかも知れません。 しかし、今回のような事故がおきた場合、係ったそれぞれに対して民法上の責任を問われたり、消費者契約法に基づいて契約の取り消しをされる事があります。 一般的に係ってくると考えられる法律は以下の通りです。 ■不動産販売者の責任 土地の売買や建売住宅の売買契約の場合は、瑕疵担保責任(民法570条)、請負契約の場合は債務不履行(民法559条) ■建築士の責任 設計業務または監理業務が請負契約の場合は債務不履行(民法559条)、委任契約の場合は受任者の注意義務(民法664条(善管義務)) 故意または過失の場合は不法行為(民法709条)、加害行為に対する使用者の責任(民法715条) ■施工者の責任 債務不履行(民法559条)、瑕疵担保責任(民法635条)。 故意又は過失の場合は不法行為(民法715条)、加害行為に対する使用者の責任(民法715条) 瑕疵担保責任は売買と請負では適用条文が違います。 売買契約の場合は、契約解除が認められ事実を知ったときから1年以内に行わなければなりません(民法570条)。請負契約の場合は契約解除が認められず(民法635条)瑕疵担保責任期間が目的物引渡し後5年または10年(この期間は短縮の特約が付けられる)です(民法638条)。 しかし、住宅の瑕疵担保期間は、契約で自由に変更できましたが、住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年6月23日公布)により、全ての新築工事の取得契約(請負・売買)において基本構造部分(基礎・基礎杭・壁・柱・小屋組・土台・筋違い等の斜め材・床版・屋根版・梁桁等の横架材)は引渡しから最低10年間となり、建設業者や一般の売主もこの瑕疵担保責任を負う事になりました(品確法87条、88条、89条)。 消費者契約法は消費者 (個人)と事業者 (法人、工務店、団体、会社、建築士、税理士、弁護士等)が結んだ消費者契約(「消費者」と「事業者」との間で締結される契約で売買契約、請負契約、委任契約等が含まれる)について不実の告知(重要事項について事実と異なることを告げること)、不利益事実の不告知など断定的判断の提供、事実の誤認などで結ばれた契約は取り消せるというものです(消費者契約法4条)。 これ以外にも関連する法律があり、建築に関連する専門的職業に就いているものはその義務と責任を果たさなければならないのです。 今回クレーム発生に至る経過を振り返った場合下記のポイントがあげられます。 1.敷地選びのポイント(建築主は気に入った敷地を探していた) 2.敷地購入のポイント(不動産取り扱い店に案内してもらい敷地が見つかり購入した) 3.間取りを決めるポイント(間取りを決める際、建築士事務所に相談せず、不動産取扱店と相談しながら間取りを決めた) 4.工事見積のポイント(決めた間取りの工事見積について施工者から細かい説明は受けなかった) 5.確認申請時のポイント(確認申請をするにあたり申請者氏名と委任状などに建て主印を押しただけ) 6.施工者と契約のポイント(施工業者と工事契約を結ぶ) 7.着工時のポイント(敷地造成と着工) 8.工事監理のポイント(建て主は毎週一度は現場を見に来た) 9.完成入居時のポイント(完成後すぐに入居) 10.維持管理のポイント(1年後にクレーム発生) |
(社)日本建築士事務所協会連合会の月刊誌「建築相談あ・ら・カルテ」
2003年1月号よりより抜粋しています。 |